もともと、いわゆる痴漢事件は、大きく分けて、迷惑行為防止条例違反と強制わいせつ罪の2つのどちらかで処罰されていました。
迷惑行為防止条例違反と強制わいせつ罪の違いは、「卑猥な行為」が行われた場合は迷惑行為防止条例違反、「暴行又は脅迫を用いたわいせつ行為」が行われた場合は強制わいせつ罪になっていました。
また、実際、強制わいせつ罪の「暴行」の定義は広く解釈され、例えば下着の中まで触れたような場合は、下着の中に手を入れること自体を暴行とみて強制わいせつ罪とみなされる場合が多かったのですが(例外あり)、いずれにせよ暴行または脅迫を用いることが必要とされていました。
そのような状況で、令和5年6月の刑法改正により、強制わいせつ罪は、不同意わいせつ罪(同年7月13日から施行)になり、これまでの取扱いは大きく変わりました。
強制わいせつ罪と不同意わいせつ罪の大きな違いは、強制わいせつ罪は暴行または脅迫を用いなければ罪が成立しなかった一方、不同意わいせつ罪は暴行または脅迫を用いない場合であっても一定の条件を満たすと罪が成立することです。
一定の条件とは、具体的には、アルコールや薬物の影響、同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在、予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕などを原因として、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、「わいせつ行為」が行われた場合です。
例えば、これまでは迷惑行為防止条例違反とされていたような行為であっても、不同意わいせつ罪として立件、起訴される可能性が高いと考えられます。
また、不同意わいせつ罪は、「6月以上10年以下の懲役」と重い法定刑が定められているというのも特徴のひとつです(これに対し、例えば、福岡県迷惑行為防止条例は、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、常習になると「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」という法定刑が定められています)。
痴漢事件にはいくつかの特徴があります。